私はゲームが好きなのですが、ゲーム用のデバイスとしては、良いGPUよりも良いCPUを定価で購入するほうが難しい気がしています。そこで、前回のNvidiaに引き続き、AMDについても調査を行いました。
今回の記事は、以下の方向性でまとめています。
- 財務状況: 収益性、成長性、財務健全性
- GPU市場のシェア推移: Nvidiaとの競争力を含め、CUDA以外の要素も分析
- AI・データセンター市場での立ち位置: MI300などの最新チップの展望
- 競争環境と戦略: Intel、Nvidiaとの比較、およびAMDの成長戦略
- 株価の割安性: 現在のバリュエーションと市場の評価
では初めていきます。
AMD株の中長期投資評価
1. 財務状況
売上と利益の推移: AMDの業績は近年著しく成長しました。2019年の売上高は約67億ドルでしたが、2020年に約97億ドル、2021年には164億ドルと急拡大し、2022年には約236億ドルに達しました (1)。2023年はPC需要低迷などで約226.8億ドルと前年から3.9%減収しましたが (1)、2024年にはデータセンター向け需要(後述のAI需要)が牽引し過去最高の258億ドルの売上を記録しています (2)。営業利益・純利益も2021年までは大きく伸び、2021年には純利益約31.6億ドルと黒字転換後最高を更新しました (3)。しかし2022年は純利益13.2億ドル、2023年は8.54億ドルと減益しています (3)(Xilinx買収関連の無形資産償却や景気減速の影響)。一方で調整後(Non-GAAP)ベースでは2023年の営業利益49億ドルと堅調であり (4)、基本的な収益力は維持されています。
キャッシュフローと財務健全性: AMDは事業好調に伴い営業キャッシュフローも増加しており、2021年以降フリーキャッシュフローも十分な水準です。大型買収(後述)も自社株交換を中心に行ったため負債は低水準に保たれています。2023年末時点で株主資本570億ドルに対し、有利子負債は約17億ドル(負債比率わずか3%)と財務基盤は極めて健全です (5)。流動比率も2.5倍程度と高く、短期支払い能力にも余裕があります (6)。これは競合他社と比べても良好な水準です。また自己資本比率も高く、潤沢なキャッシュで積極的な研究開発投資や戦略的買収を支えられる状況です。
成長率と市場の期待: 2020~2022年に年率40~60%超という非常に高い成長を達成したことから、市場はAMDに高い成長期待を織り込んでいます。実際、データセンターや組込み部門は2023年も前年比で増収を維持し(特にデータセンターは+45%) (4)、2024年にはAI需要を追い風にデータセンター部門が前年の2倍近い126億ドル売上に達するなど成長が続いています (2)。AMD経営陣も「需要が加速しており2024年は強い年間成長を達成できる見込み」と強気の見通しを示しています (4)。市場アナリスト予測では2024年売上は約256~315億ドル、2025年は315~395億ドルまで拡大すると見込まれています (6)。このような高成長期待から、AMD株のバリュエーションは割高水準にあり(後述)、「成長込みの評価」がなされています (6)。
2. GPU市場におけるAMDの立ち位置
市場シェア:
GPU(グラフィックス用途)市場では長年NVIDIAが支配的で、AMDはシェアで大きく劣勢です。2024年初頭時点でディスクリートGPUの市場占有率はNVIDIA約88%、AMD約12%と報じられており (7)、NVIDIAが実に約9割を占めています(Intelは残り数%未満) (7) (8)。特にハイエンドGPU市場ではNVIDIAがほぼ独占的な地位にあります。この背景には、NVIDIAの製品力のみならずソフトウェアエコシステムの強さがあり、CUDAという開発環境を軸に圧倒的な開発者支持と最適化を獲得している点が大きいです。一方、AMDはかつてはゲーム機向けなどで市場を広げましたが、PC向けディスクリートGPUではシェア低下が続いており、2024年現在はNVIDIAに大きく水をあけられている状況です (7)。
性能・コスト:
製品性能面では、AMDの最新GPU(例:Radeon RX 7000シリーズ)はラスタライズ性能(通常の描画処理)で競合するNVIDIA製品に匹敵することも多く、特に価格性能比(コストパフォーマンス)では優位とされます (8)。例えばAMDの最上位カードRX 7900 XTXは999ドルで発売され、1600ドル超のNVIDIA RTX 4090に比べ大幅に安価ながら高解像度ゲームで健闘しています (8)。ただし純粋な性能の頂点では依然NVIDIAが上回り、4K解像度やレイトレーシング性能ではNVIDIAが依然リードしています (8)。NVIDIAは専用コアによる高度なリアルタイムレイトレーシングやDLSS(AIによる映像補完)など先進機能で先行しており、絶対的なグラフィックス性能と機能面で優位性を保っています (8)。AMDもRDNA2世代からハードウェアレイトレーシングに対応し、最新RDNA3ではその差を縮めつつありますが、最先端機能・性能では「8割程度の性能をより低価格で提供する」ポジションが現状です (9)。
ソフトウェア対応・開発環境:
CUDA以外のエコシステム要素として、ソフトウェアや開発者支援の充実度が重要です。NVIDIAはCUDAを中心にGPU向けライブラリ、開発ツール、ドライバ最適化、開発者コミュニティなど包括的なエコシステムを構築しており、これが他社には大きな参入障壁となっています。AMDも対抗策としてオープンソースのGPU計算プラットフォーム「ROCm」やCUDAコードを移植可能な「HIP」を提供し、エコシステム強化を図っています。しかし現状ではROCmはCUDAに比べドキュメントや最適化の成熟度、採用実績で大きく見劣りするのが実情です (10)。実際、AMDも2023年末の投資家向けイベントで、自社GPUが採用されない最大の要因がソフトウェア環境の弱さにあることを認め、CUDAに匹敵するようROCmソフトウェア群の欠点を改善したと述べています (11)。開発環境面ではNVIDIAが長年の蓄積でリードしていますが、AMDはオープンスタンスでHPC業界標準のOpenCLやHIP、また近年はPyTorchなど主要AIフレームワークへの対応強化を進めており、ソフト面の追い上げにも注力しています。
顧客基盤・エコシステム:
AMDのGPU顧客基盤を見ると、コンシューマー分野ではソニーPlayStationやMicrosoft Xboxといった主要ゲーム機に独占的にGPUを供給してきた実績があります。これによりゲーム開発会社はAMDアーキテクチャに精通しており、PCゲームでもAMD GPU向け最適化が進む土壌はあります。しかしハイエンドPCゲーマーやクリエイター市場ではNVIDIAブランドの人気が根強く、CUDA対応ソフトが多いプロ向け分野では依然NVIDIAが標準となっています。エコシステム全体で見ると、ゲーム機・PCゲームでは一定の存在感があるものの、プロフェッショナル向けやAI研究開発用途での顧客基盤はNVIDIAの圧倒的シェアに対しAMDは限定的です。ただ近年は後述するようにHPCスーパーコンピュータやクラウドプロバイダでAMD GPU採用例が出てきており、顧客基盤の拡大余地が生まれつつあります。
RDNA・CDNAアーキテクチャの進展:
AMDはGPUアーキテクチャを用途別に最適化しており、RDNA系統はゲーミング/グラフィックス用途、CDNA系統はコンピューティング用途(AI/HPC)に特化しています。RDNAは2019年登場の初代から始まり、現行のRDNA3(ラデオンRX 7000シリーズ)では業界初のチップレット設計を導入し、性能向上とコスト削減を両立しました。RDNA世代ごとに性能/W効率を飛躍的に伸ばし、RDNA2はレイトレーシング対応や当時のハイエンドGPUであるNVIDIA RTX3000シリーズに肉薄する性能を実現しました。RDNAアーキテクチャはPlayStation5やXbox Seriesにも採用されており、幅広いプラットフォームで実績を積んでいます。
一方、CDNAは計算性能とメモリ帯域を重視した設計で、GPUグラフィックス機能を省いて演算に特化したアーキテクチャです。CDNA2ベースの「Instinct MI200」シリーズは米国オークリッジ研究所のフロンティア(Frontier)スーパーコンピュータで37,888基ものGPUが採用され、世界初のエクサスケール(百京回/秒)計算を達成するなど、HPC領域で成果を上げました (12)。最新のCDNA3アーキテクチャ(MI300シリーズ)ではCPUとGPUを3D積層で統合する先進的な設計に踏み込み、大規模AI処理に適したメモリ容量と性能を提供しています。RDNA系・CDNA系を用途に応じて発展させる戦略により、AMDはコンシューマーからHPC/AIまでGPUアーキテクチャを最適化して投入できる柔軟性を持っています。
3. AI・データセンター市場での競争力
最新AIチップ(MI300)の技術的強み:
AMDはAI・HPC向けGPU「Instinct」シリーズでNVIDIAに挑んでおり、その最新世代がMI300シリーズです。MI300にはCPUとGPUを一体化したAPU版(MI300A)と、大容量メモリを搭載したGPU版(MI300X)があります。特にMI300Xは最新のCDNA3アーキテクチャを採用し、HBM3メモリを192GB搭載する点が大きな特徴です (11)。これはNVIDIAの最新AIフラッグシップGPU(H100、80GB)を大きく上回るメモリ容量で、巨大なAIモデルの処理に有利です (11)。Lisa Su CEOはMI300を「生成AI向けで世界最高性能のアクセラレータ」と称しており (13)、実際大規模言語モデル(LLM)など生成AIの学習・推論において高速応答や大規模モデル搭載を可能にする設計となっています。技術的には、CPUチップレットとGPUチップレットを3次元積層し共有メモリ空間で連携する先進技術により、従来GPU単体では困難だったCPU-GPU間のメモリボトルネック解消を狙っています。総じてMI300シリーズは、演算性能・メモリ帯域・容量でNVIDIA最新GPUに匹敵しうる競争力を備えており、特に超大規模モデル処理や省スペースなAIインフラ構築で強みを発揮すると期待されています (14)。
市場での評価と成長余地:
MI300は2023年後半~2024年にかけて本格出荷が始まった新製品ですが、市場の評価は上々で「NVIDIAの牙城に迫る初の本格的競合製品」との声もあります (13)。実際、AMDは2024年に入りAI向けGPU売上が急増しており、第3四半期にはInstinctシリーズだけで四半期10億ドル超を達成したとされています (15)。データセンター事業全体でも2024年は前年比+94%と倍増しており、その主要因がAIアクセラレータ(Instinct)需要です (2)。市場規模の面でも、AMDはAIアクセラレータ市場の将来規模を2028年までに5000億ドル規模と試算し上方修正しており (6)、この巨大市場でシェアを拡大できればAMDの成長余地は非常に大きいと見られます。現状ではAI向けGPUの約90%以上をNVIDIAが占める寡占市場ですが、裏を返せばAMDにとってはシェア拡大のポテンシャルが極めて大きいと言えます。MosaicML社の検証では、旧世代のAMD MI250でもNVIDIA A100の約8割の性能を発揮し価格優位性が示されました (9)。最新のMI300では性能面でさらに差を詰めており、ソフト面のハードルさえ下がれば価格性能比で魅力的な代替案として多くの顧客に受け入れられる可能性があります。Wedbush証券は「AMDはAIチップでNVIDIAに次ぐ“最も明確なチャレンジャー”である」と評価しつつ、現時点では依然NVIDIAが優位との見解ですが (13)、AMDがシェアを20~30%に伸ばすだけでも飛躍的な成長につながるでしょう。
主要顧客・パートナーシップ:
AMDのAI/Data Center分野での顧客動向として注目すべきは、大手クラウド・AI企業との連携強化です。2023年末のAMDイベントではMeta(Facebook)やMicrosoft、OpenAIがAMDのMI300Xを採用する計画を表明し、大きな話題となりました (11)。これは、ChatGPTなど生成AI需要の高まりでNVIDIAのH100が逼迫・高騰する中、大手テック企業がNVIDIAに次ぐ選択肢としてAMD GPUを本格採用し始めたことを意味します(11)。特にMicrosoftは自社クラウドAzureでMI300X搭載のAIインフラを提供予定と発表しており、顧客企業にNVIDIA H100の代替手段を提示し始めました (16) 。NVIDIA製品は依然需要超過で入手困難な状況にあるため、これはAMDにとって絶好のシェア拡大機会です (16)。
またHPC分野では、前述のフロンティアに続き2024年にはエクサスケール第2号機「El Capitan」にMI300Aが採用予定であり、米国エネルギー省など政府系の大型案件も獲得しています。さらに、AMDは2022年にFPGA大手のXilinxを買収しており、これによりCPU+GPU+FPGAをワンストップ提供できる体制を構築しました。例えば通信大手や車載分野ではFPGAとGPUの組合せソリューション提案が可能になるなど、総合力でデータセンター以外のAI需要も取り込む戦略です。総じて主要顧客層はまだ限定的ながら、世界トップクラスのクラウド事業者・AI企業が採用に動き出したことで、今後の実績次第では採用事例が雪だるま式に増えるポテンシャルがあります。
4. 競争環境とAMDの戦略
Intelとの比較(CPU競争):
CPU分野では、AMDは2017年以降の「Zen」アーキテクチャ成功によりIntelから着実にシェアを奪取してきました。サーバー向けではEPYCシリーズが高性能・高コア数路線で評価され、クラウド・エンタープライズ双方でシェア拡大しています (6)。2023年時点でx86サーバーCPUシェアの20%以上をAMDが占めたとの推計もあり、特にクラウド大手(AWS、Azure等)はEPYC採用を拡大しています。クライアント向け(PC)でもRyzenシリーズが性能・電力効率で競争力を持ち、Intelと激しく競り合う状況です。一方でIntelも近年ハイブリッドコア採用や新プロセスへの移行で巻き返しを図っており、今後の世代(Meteor Lake以降など)で競争力を高めています。Intelは製造プロセス内製の強みがある反面、近年のプロセス遅延でAMDに先行を許しましたが、逆に自社Fabで先端プロセスを取り戻せばAMDに対抗し得る体力があります。さらにIntelは独自のGPU(Arcシリーズ)やAIアクセラレータ(Gaudiシリーズ)も投入し始めており、CPUに加えGPU・AI分野でも競合となりつつあります。
総合的に見ると、CPU戦争はAMDが技術リードを保ちながらもIntelの巨額投資による巻き返しが最大のリスクとなります。AMDはロードマップ上Zen5、Zen6といった次世代CPU開発を進めつつ、TSMCの先端プロセスを活用して優位を維持する戦略です。Intelと比べ開発リソースや資金力では見劣りしますが、小回りの利く設計と外部ファブ活用で俊敏な製品投入を続けることが肝要でしょう。
NVIDIAとの比較(GPU/AI競争):
GPUおよびAI分野では、AMDは明確にNVIDIAを追う立場にあります。NVIDIAはGPUコアとCUDAによるソフトウェアの“垂直統合”で圧倒的なブランドと市場シェアを築きました。特にAIブームにおいてNVIDIAのGPU(A100やH100)は事実上の標準インフラとなり、「GPU= NVIDIA」という図式が固まっています。この牙城にAMDは挑戦を開始した段階ですが、前述のように最新製品MI300でスペック上は肉薄し、大手顧客の支持も得始めました。NVIDIAの優位性はハードだけでなくCUDAエコシステムやソフト資産にあり、AMDがこれを短期で覆すのは容易ではありません (10)。AMDにとってNVIDIAと戦う上での強みは、CPUも自社で持つ点とオープン戦略です。NVIDIAが独自CPU(ArmベースのGrace)を開発しCPU+GPUで提案しようとしているのに対抗し、AMDはCPUとGPUのシナジー(例:APU技術や高速IF)を訴求できます。またソフトウェア面でもROCmをオープンソースで提供し、顧客がベンダーロックインを回避できる利点を強調しています。さらに価格戦略でも、同等性能ならAMDは割安価格を提示する傾向があり (17)、コスト重視の顧客には魅力です。ただNVIDIAも近年はソフト・サービス面をパッケージ化して価値提供する戦略を取り、単なる価格比較がしにくいビジネスモデルを構築しています。競争環境としては、短期ではNVIDIAが圧倒的優位を維持するものの、中長期ではAI需要拡大による「2番手の台頭余地」が十分にあり、AMDがそのポジションを確保できるかが焦点です (17) 。
AMDの成長戦略:
AMDは今後の成長に向け、製品ロードマップとM&A戦略の両面で布石を打っています。製品面ではCPU・GPUともに年次的なアーキテクチャ更新を継続し、2024~2025年にかけてZen5/Zen6やRDNA4、CDNA4といった次世代を投入予定です。特にAI対応を各ラインで強化しており、CPUにはAI推論アクセラレータ(Xilinx由来のAIエンジン)を内蔵、GPUは大規模モデル対応のメモリ強化、FPGAはデータセンターでのスマートNICや推論アクセラレータへの展開など、ポートフォリオ全体でAI時代に適応しようとしています。戦略的買収も大きな柱で、2022年に約350億ドル規模でFPGA最大手のXilinxを買収し、製品ラインを補完しました。これによりIntelがAlteraを持ち、NVIDIAがMellanox(高速ネットワーク・DPU)を持つのに対抗して、AMDもFPGAやDPUを手中に収めた形です (18)。実際、Xilinx統合はデータセンターや5G通信、自動車向けで新たな収益源をもたらしつつあり、AMDの市場多角化と顧客基盤拡大に寄与しています。また同じく2022年にはDPUスタートアップのPensandoを約19億ドルで買収し、スマートNIC/セキュリティ分野も強化しました。これらのM&Aにより、AMDはCPU+GPU+FPGA+DPUというフルスタックの半導体ソリューション企業へ変貌しつつあります。今後も必要に応じてAI分野のソフトウェア企業やIP取得のための小規模買収を検討する可能性があります。総合戦略としてLisa Su CEOは「クラウドからエッジまでAIを含む高性能コンピューティングを網羅する」方針を掲げており (19)、データセンター事業の拡大とPC依存度低下による安定成長企業への転換を目指しています。競争環境は厳しいものの、ロードマップ遂行力と買収シナジー創出が鍵となるでしょう。
5. 株価の割安性評価
バリュエーション指標:
AMD株はここ数年の業績成長を織り込み大きく上昇しました。現在の株価水準を指標面で見ると、PER(株価収益率)は調整後利益ベースで30~40倍程度、GAAP純利益ベースでは100倍超と非常に高い水準です (6)。2023年のGAAP利益が買収費用等で圧縮され低かったためPERが割高に見えますが、市場は将来の利益成長を織り込んで評価している状況です。予想PER(フォワード)は概ね40倍前後と見られ、これは同業のNVIDIA(約40倍)とほぼ同水準で、Intel(20~30倍)よりは高めです (20)。つまり成長株としてのプレミアム評価がなされているといえます。
PBR(株価純資産倍率)を見ると、AMDは約3.9倍(2024年初時点)で (21)、同業のNVIDIAが50倍超とも言われる中では遥かに低く健全です (21)。もっともAMDはXilinx買収で巨額ののれん・無形資産が計上され自己資本が膨らんだ影響もあり、PBRは参考指標にとどまります。PSR(株価売上高倍率)は7~8倍程度と推定され、NVIDIAの30倍超と比べると割安に映ります (17)。実際、「NVIDIAのP/Sは31.2倍、AMDは7.5倍」との指摘もあり、市場の熱狂度合いの差を示しています (17)。このようにAMD株はNVIDIAほどの超高倍率ではないものの、半導体セクター平均やIntel等と比べれば割高な水準です。
株価推移と市場評価:
AMD株価は中長期では劇的な上昇を遂げています。2016年頃には3~5ドルだった株価が、2021年末には一時150ドルを超え、以降調整を挟みつつ2023~2024年は100ドル前後で推移しています。過去5年で見ると10倍以上の上昇を演じており、これはAMDの事業復活と成長期待を反映したものです。一方、ボラティリティも高く、2022年にはハイテク株調整で半値近く下落する局面もありました。現在の株価は直近1年のレンジの中間程度に位置し、アナリストの投資判断は総じて強気(Strong Buy)が多い状況です (22)。
ただし既に高成長を前提とした株価水準のため、業績が失速した場合の下落リスクも大きい点に留意が必要です。特にAIブームの中で競争に後れを取れば失望売りが出る可能性があります。逆に言えば、市場は将来の高成長を織り込んでいるため「割安」と断言できる水準ではないものの、AMDが期待通り成長を遂げればさらなる株価上昇の余地があります。
総合評価:中長期投資対象としての魅力
以上を総合すると、AMDは中長期の成長ストーリーを持った魅力的な銘柄と評価できます。
その根拠は、CPU市場でIntelに対する競争優位を築きつつあり収益基盤が強化されたこと、GPU市場でも劣勢ながらAIという新たな成長分野で巻き返しの芽が出てきたこと、財務体質が健全で積極投資に耐えうることです。特に今後数年間はデータセンターやAI需要の拡大が見込まれ、AMDがその波に乗って収益・シェアを伸ばす余地は大きいでしょう (6)。
一方で留意すべきリスクもあります。まず競合の動きによっては成長が鈍化するリスクです。NVIDIAはソフト含め盤石であり、Intelも巨額投資で反撃を狙っています。これらに対抗してシェアを伸ばし続けるには、AMDは継続的な技術革新と的確な戦略実行が求められます。次に株価面では既に高い成長期待を織り込んでいるため、短期的な割安感は乏しくボラティリティも高い点です。しかし中長期の視点では、半導体産業の構造転換期においてCPU・GPU・FPGAを網羅するAMDのポジションは以前にも増して戦略的価値が高まっています。
市場規模の拡大するAI加速や高性能コンピューティング分野で、AMDが明確に「第二の巨頭」として地位を確立できれば、現在の株価水準以上の企業価値拡大も十分期待できるでしょう。
総じて、AMDは中長期投資対象として高い成長潜在力を持つ一方、競争激化による不確実性も内包する銘柄です。投資妙味は大きいものの、楽観シナリオが織り込まれている点を踏まえつつ、同社の技術ロードマップの進捗や競合動向を注視していく必要があります。現時点では、将来のデータセンター/AI市場での地位向上に賭けられるかどうかが鍵となり、その成長ストーリーを信じるならば中長期で魅力的な投資先と言えるでしょう。 (17)
参考
- 1: AMD Revenue 2010-2024 | AMD | MacroTrends
- 2: AMD Reports Fiscal Fourth Quarter and Full Year 2024 Financial Results | TechPowerUp
- 3: AMD Net Income 2010-2024 | AMD | MacroTrends
- 4: AMD Reports Fourth Quarter and Full Year 2023 Financial Results :: Advanced Micro Devices, Inc. (AMD)
- 5: Advanced Micro Devices (AMD) Balance Sheet & Financial Health …
- 6: AMD’s SWOT analysis: stock poised for growth amid AI boom By Investing.com
- 7: NVIDIA absolutely dominates AIB GPU market in Q124 with 88% leaving AMD with 12%, Intel has 0%
- 8: AMD vs Nvidia GPUs: Battle of The Graphics Giants in 2025 exIT Technologies
- 9: Nvidia Versus AMD: Which AI Stock Is The Better Buy Right Now?
- 10: CUDA vs ROCm: The Ongoing Battle for GPU Computing Supremacy
- 11: Meta and Microsoft: they announce they will buy AMD’s new AI… – moomoo Community
- 12: World’s First Exascale Supercomputer Powered by AMD EPYC …
- 13: AMD Stock Surges With Microsoft, Meta, and OpenAI Set to Use Its Latest AI Chip
- 14: AMD sees AI revenue soar as Instinct MI300 GPU already rivals …
- 15: AMD: Instinct AI Chip Sales Exceed Expectations As Microsoft … – CRN
- 16: Microsoft cloud: Microsoft offers cloud customers AMD alternative to Nvidia AI processors – The Economic Times
- 17: Why I think AMD is cheap at $158. : r/AMD_Stock
- 18: AMD-Xilinx Acquisition: AMD Investor Perspective – Seeking Alpha
- 19: AMD Brings New AI and Compute Capabilities to Microsoft Customers
- 20: AMD vs INTC vs NVDA: Which Chip Stock is Likely to … – Tokenist
- 21: AMD vs. NVIDIA: The Better Semiconductor Bet for 2025 – MarketBeat
- 22: Who Are Nvidia’s Top Competitors In 2024?