前回の記事ではGPUの技術的仕様の中でも非常に基本的なところについて解説しました。今回は、若干踏み込んでどのように読み解けばいいのか・ほかの並列計算を得意とするハードに対してどのような比較をするべきかについて記載しています。
本記事の目次は以下です。
- 最新のGPUで使われる用語や数値の意味(AMDの新型GPUの仕様などを具体例として)
- TPUとの違いと適用範囲、代替可能性
- FPGA、ASICとの比較
- GPUの歴史的な進化と現在の寡占状況が続く可能性
4. 最新GPUの技術仕様の読み解き方
近年のGPU製品のスペック表には様々な指標が並んでおり、一見すると難解ですが、ポイントを押さえればそのGPUの性能や特徴を読み解くことができます。
以下では、AMD社とNVIDIA社のGPUスペックの主な項目や意味について解説します。
GPUの性能を語る上でまず挙がるのが、コア数と演算性能です。
NVIDIAの「CUDAコア数」やAMDの「ストリームプロセッサ数」は、前回記事のように内部の演算ユニットの総数で、基本的な並列性能の目安になります。一般にこの数が多いほどGPUの生の演算能力は高く、同世代・同アーキテクチャであればコア数に比例して性能も向上します。
演算性能は通常FLOPS(Floating Point Operations Per Second)という単位で示され、毎秒何兆回の浮動小数点演算ができるか(テラフロップス, TFLOPS)で表現されます。スペック表では単精度(FP32)での理論演算性能がよく記載されます。例えばRTX 4090では約82.6 TFLOPS(単精度)という非常に高い値を誇り、これは一般的なCPUをはるかに凌ぐ演算能力です 1。AMDのGPUでも同クラスのハイエンドなら同程度の数十TFLOPS規模になります。
なお、「演算ユニット数×動作周波数×命令あたり演算数」で理論FLOPSは算出できますが、実アプリケーションで常にこの値が出るわけではありません。あくまで目安の最大性能値です。
GPUはさまざまな数値形式の計算能力を持ち、それぞれ性能が異なります。代表的なのがFP32(単精度浮動小数点演算)とFP64(倍精度浮動小数点演算)です。FP32は32ビット長の浮動小数点数による計算で、ゲームやグラフィックス、機械学習の学習などで主に使われます 2。FP64は64ビット長でより高い精度を持つ計算ですが、その分演算回路が複雑になるため、一般的なGPUではFP64の性能はFP32よりかなり低く抑えられています 2。
例えばNVIDIAのゲーム向けGPUではFP64はFP32の1/32程度の速度しか出ないものもあります。一方、科学技術計算向けのGPU(TeslaやAMD Instinctシリーズなど)ではFP64性能が重視され、FP32の半分程度のスループットが出るものもあります 3。実例を挙げると、AMDのInstinct MI100というGPUはFP32で最大23.1TFLOPS、FP64で11.5TFLOPSと、公称値でちょうど半分の性能になっています 3(GPUによって比率は異なります)。
またINT8やFP16といった低精度の演算にも対応しており、特にディープラーニングの推論(学習済みモデルの実行)では精度を少し落としてINT8や半精度で計算し高速化・省メモリ化することが一般的です。最新のGPUはINT4やTensorFloatなどさらに低精度のフォーマットにも対応し、用途に応じて使い分けられます 4,5。スペック表では「FP16性能○○TFLOPS」「INT8性能○○TOPS(テラオペレーション)」などと記載される場合もあり、これらは主にAI向け性能を示す指標です。自分の用途でどの精度の計算が重要かに応じて、GPUの対応精度や性能比にも注目するとよいでしょう。
前章で説明したVRAMに関する指標です。スペック表には「メモリ容量 ○○GB」「メモリ種類 GDDR6/6X/HBM2」「メモリバス幅 ○○bit」「メモリ帯域幅 ○○GB/s」などが記載されます。メモリ容量はそのGPUが扱えるデータ量の上限を決め、容量不足だとテクスチャなどを都度読み込みするため処理が遅延します。高解像度のゲームや重量級のレンダリングには大容量(8GB以上)が推奨されます 6。
メモリ帯域幅はメモリのデータ転送速度の指標で、「バス幅×メモリクロック×データレート」で算出されます。例えばバス幅256bitでメモリデータレート19Gbpsの場合、帯域幅は約608GB/sになります。帯域幅が大きいほどGPUコアがデータ待ちになる時間が減り、高性能が発揮しやすくなります。最新のハイエンドGPUでは帯域幅が800GB/sを超えるものもあります。
AMDはRDNA2世代からInfinity Cacheと呼ばれる大容量のオンダイキャッシュを搭載し、見かけ上のメモリ帯域を引き上げる工夫もしています(これはスペック表には直接の数字は出ませんが重要な要素です)。総じて、高性能GPUほどメモリ容量が大きく、バス幅も広く帯域も高い傾向にあります 6。自分が扱うデータ量や解像度に対して十分な容量か、帯域がボトルネックにならないかチェックすると良いでしょう。
GPUは高性能化に伴い消費電力も増加しています。スペック表には「TDP(熱設計電力)○○W」といった形で定格消費電力が示されます。ハイエンドGPUではこのTDPが非常に大きく、例えばRTX 4090では最大450Wに達します 1。450Wというと家庭用電子レンジ並みの電力消費であり 1、これだけの電力がGPUボード上で熱に変わるため、強力な冷却機構が必要になります。
実際、RTX 4090搭載カードは巨大なヒートシンクと3連ファンを備え、カード自体も非常に大型です 1。消費電力が大きいということは発熱量も多いことを意味するので、PCケースのエアフローや電源ユニットの容量などにも注意が必要です。近年のGPUは電力効率も改善していますが、それ以上に性能向上が著しいため絶対消費電力は増加傾向です。
ミドルレンジGPUでも150~250W程度、ハイエンドでは300Wを超えるのが一般的になっています。ノートPC向けやデータセンター向けでは電力当たり性能(性能/W)も重視され、動的にクロックを下げて消費電力を抑える機能や、負荷に応じた電力制御が細かく行われます 7。スペック上のTDPはあくまで目安で、実使用時にはGPU利用率次第で消費電力は変動しますが、自作PCやワークステーションでは電源と冷却をスペックに見合ったものにすることが大切です。
発熱や消費電力はGPUのデメリット面とも言え、性能とのトレードオフとして理解しておきましょう。最近では省電力性に優れたアーキテクチャの研究も進んでおり、次世代では同じ性能で消費電力が下がることも期待されています 8。
GPUのスペック表には他にもGPUクロック周波数(ベースクロック/ブーストクロック)、製造プロセスルール(例: 5nm)、トランジスタ数、GPUチップのダイサイズ(面積)、出力ポート(HDMI/DisplayPortのバージョン)、対応API(DirectXやOpenGLのバージョン)など様々な情報が載っています。クロック周波数はGPUコアの動作速度で、同じアーキテクチャなら高クロックほど性能が上がります。
製造プロセスは半導体の微細化技術の世代を示し、一般に数字が小さい(より新しい)ほど省電力・高密度で高性能なGPUが実現できます。トランジスタ数やダイサイズは直接ユーザに影響する項目ではありませんが、ハイエンドGPUほど巨大なチップであることが分かります。
また消費者目線では、使用目的に応じてCUDAコア数やメモリ、消費電力など主要なスペックを見比べることで、大まかな性能ランクや適性が判断できます。たとえば「同世代で上位モデルほどコア数・メモリ・TDPが大きい」「ゲーム用途ならコア数とクロック重視、クリエイター用途ならメモリ容量も重視」などです。AMDとNVIDIAの比較では単純に数値だけでは測れない部分もありますが(アーキテクチャによる効率差など)、公開されている仕様を丁寧に読むことで、そのGPUがどの程度の性能で何に向いた設計か理解する助けになります。
ポイント:GPUスペックの見方
- コア数とFLOPS:内部の並列演算ユニット数。多いほど演算性能は高い傾向。FLOPS(テラフロップス)値は主にFP32(単精度)で表記され、GPUの理論演算性能を示す目安。
- 計算精度:FP32(単精度)は標準的な精度、FP64(倍精度)は高精度だがゲーム向けGPUでは性能が低め 2。INT8やFP16など低精度はAI推論で活躍。用途に応じた精度性能を見る。
- メモリ容量・帯域:大容量VRAMほど高解像度・大規模データに有利。帯域幅はバス幅とクロックで決まり、高帯域だとGPUの潜在性能を引き出しやすい 6。必要な容量/帯域を満たすかチェックする。
- 消費電力(TDP):数値が大きいほど発熱・電力消費が大きい。ハイエンドGPUでは300W超も多い 1。電源ユニット容量や冷却対策も考慮する。省電力GPUは性能控えめだが静音・省エネ。
- その他:GPUクロック(動作周波数)が高いほど速い(同アーキテクチャ比較時)、新しい製造プロセスほど電力効率が良い、対応する映像出力端子や技術(レイトレ対応可否など)も用途に影響する。
5. TPUとの違いと適用範囲
TPU(Tensor Processing Unit)は、Google社が開発したAI(ディープラーニング)専用のプロセッサです。GPUがグラフィックスから発展して汎用並列計算にも使われるようになったのに対し、TPUは最初から機械学習の行列演算に特化して設計されたハードウェアです 9。
Googleは自社の機械学習フレームワーク(TensorFlow)での利用を念頭に置き、2015年頃から独自のTPU開発を進めました。TPUは内部に大量の乗算器を配列状に配置した積和演算回路(シストリックアレイ)を持ち、ニューラルネットワークの重みと入力の積和計算を超並列に実行します。例えば一般的なGPUが32ビット浮動小数点の乗算器を数千個持つのに対し、初期のTPUは8ビット整数の乗算器を65,536個も搭載していました 10。つまり、GPUが高精度な計算を汎用的にこなす“オールラウンダー”だとすれば、TPUは低精度でも良いから特定の計算(行列積)を圧倒的な並列度でこなす“スペシャリスト”と言えます。
TPUの特徴はその電力効率の高さです。無駄な機能を省きディープラーニング演算に特化した結果、同じ消費電力あたりの性能がGPUより優れているとされています 9。実際Googleの発表では、ある推論処理でGPUの15~30倍の速度、30~80倍のエネルギー効率を達成したという例もあります 11。もっとも、これは特定条件下での比較であり、GPUも世代ごとにAI性能を向上させているため、一概に何倍とは言えません。しかし少なくともGoogle内部の大規模データセンターでは、TPUを使うことで消費電力とコストを大幅に削減しつつ必要なAI計算能力を得ているようです。
2023年にはTPUは第5世代(TPU v5e)まで開発が進んでおり、世代を追うごとにトレーニング(学習)にも使えるようになっていました 9。TPUは基本的にGoogleのクラウドサービス(Google Cloud Platform)の中で利用可能で、一般消費者向けに市販はされていません。しかし研究者や開発者はGoogle ColaboratoryなどでTPUを利用した機械学習を実行でき、その高速さを体験することができます。
構造的な違いとしては、GPUが多目的な演算ユニット+メモリ+柔軟なプログラミングモデルを持つのに対し、TPUは行列演算ユニット+大容量の積和用バッファメモリのみで構成され、動作もあらかじめ定められたパターン(例えば一連の行列積演算)に沿って行われます。プログラム可能性で言えばGPUの方が汎用ですが、その分ハードウェア資源に無駄(柔軟性ゆえのオーバーヘッド)があるとも言えます。TPUは柔軟性を犠牲にして特化したことで、シリコンチップ上の大部分を演算に充てられるため効率が高いのです 9。具体的には、GPUは演算器以外にテクスチャユニットやキャッシュ、制御回路なども多く載せていますが、TPUはほぼ演算回路とそのための単純な制御回路だけで構成されています。そのため実装も比較的小さく済み、同じダイサイズならGPUより多くの演算器を詰め込めます。
適用範囲の違いとして、GPUはグラフィックス描画から汎用計算まで幅広く使われているのに対し、TPUは主にディープラーニングの学習・推論に用途が限られます。GPUはゲームや映像分野でも欠かせない存在ですが、TPUは画面出力を持たないデータセンター内の計算アクセラレータです。また、TPUはGoogleのクラウドで利用することが前提のハードであり、一般のPCやサーバで自由に増設できるものではないという点も異なります。Google以外のクラウド事業者(例えばAWSやMicrosoft Azure)では主にNVIDIAのGPUをAI計算に使っています。とはいえ、一部ではGoogleがTPUを外販する動きもあり、将来的に他社データセンターでも採用される可能性はあります。
「TPUはGPUを代替できるか?」という問いについては、現時点では部分的にはイエス、全体としてはノーと言えます。TPUは確かに特定のAIワークロードで驚異的な性能を発揮しますが、対応する処理以外はできません。一方GPUはAI以外の汎用計算や映像処理もこなせますし、AI処理においても新しいモデルやアルゴリズムへの適応がしやすいという利点があります。
TPUは「決められた計算を大量にこなす」ことに最適化されており、現在流行しているディープラーニングの手法にはバッチサイズ大きめの行列演算が多いのでマッチしています。しかしAI研究は日進月歩であり、もし将来計算手法が変わればTPUの設計も変える必要があります。その点GPUは柔軟性が高く、ソフトウェアの変更で新しい手法に対応できます。実際、多くのAI研究者や企業はGPUを使っており、TPUはGoogle関連の一部プロジェクトで主に使われている状況です。総括すると、TPUが得意な領域ではGPUを凌駕する性能を発揮するものの、GPU全体を置き換える存在ではなく、特定用途のアクセラレータとしてGPUと共存しているというのが現状です 12。
ポイント:GPUとTPUの比較
- TPUの性質:Google開発のディープラーニング専用チップ。行列計算に特化し、消費電力あたりの計算効率が非常に高い 9。クラウドのAI処理向けで、単体では市販されていない。
- 構造の違い:GPUは汎用の演算器やキャッシュを持つが、TPUは行列積回路に特化し演算器を大量に搭載 10。柔軟性はGPUが上、効率はTPUが上。
- 用途の違い:GPUはグラフィックスから科学計算まで幅広く利用。TPUは機械学習の学習・推論に用途限定。特に大規模モデルの推論サービスなどで威力を発揮。
- 置換性:TPUは特定のAI計算でGPUを凌ぐが、GPU全般の代替にはならない 12。現在はGPUと併存し、適材適所で使い分けられている。
6. FPGA、ASICとの比較
GPUやTPU以外にも、特定の目的で性能を高めたり柔軟性を持たせたりしたハードウェアがあります。その代表がFPGAとASICです。これらはGPUやTPUとどう異なり、どのような用途に向いているのかを説明します。
FPGA(Field Programmable Gate Array)は、日本語で「現場でプログラム可能な論理回路」とも呼ばれるデバイスです 13。中身は多数の論理ゲート(ANDやORなどの回路素子)と配線が詰まったICチップで、ユーザーが後から自由に回路を設計・変更できる点が最大の特徴です 13。通常、IC(集積回路)は製造時に回路構成が決まってしまい変更できませんが、FPGAでは出荷後にプログラマが回路を書き換えることができます 13。
これにより、目的に合わせた専用ハードウェア回路を自分で作り上げることが可能です。例えばディープラーニングの推論を高速化したければ、FPGA上に行列演算に特化した回路を実装できます 13。FPGAはソフトウェアとハードウェアの中間的な存在で、ソフトウェアの柔軟さとハードウェアの高速さを両立しようというものです。実際には完全にICを作る(ASIC化する)よりは遅くなりますが、CPUやGPUでソフト的に処理するよりは高速・省電力になる場合が多いです。加えてFPGAはプログラムで何度でも回路を書き換えられるので、開発途中で仕様が変わっても対応できる柔軟性も持っています。
ASIC(Application Specific Integrated Circuit)は、「特定用途向けの集積回路」という意味で、ある特定の機能・用途に特化して設計された専用ICのことです。ASICは一度作り込んでしまうと変更はできませんが、その用途に必要な機能だけをハードウェア実装するため無駄がなく、性能や電力効率が最も高くなります 13。まさにオーダーメイドの超専門家といった立ち位置です 13。
例えばビットコインの採掘(マイニング)専用ASICや、映像コーデック専用ASICなどが実用化されています。それぞれCPUやGPUでもソフトウェアで処理できますが、ASICにすることで桁違いの速度・効率を実現しています。先述のTPUも広義にはASICの一種であり、ディープラーニング専用ASICと言えます 14。ASICを開発するには膨大な費用と時間がかかるため、需要が大きく継続する用途(製品)でなければ採算が合いません。しかし一度作ってしまえば量産も容易でチップ単価も下げられるため、大量生産される家電や通信機器、自動車部品などにも様々なASICが使われています。
GPU・TPU・FPGA・ASICの適材適所を整理すると、以下のようになります 13:
- CPU:汎用性が極めて高く、あらゆる処理をそこそこにこなせるオールマイティ。ただし並列処理や特定処理の効率では他に劣る。
- GPU:本来はCPUを補佐するもう一つの頭脳 13。同じ処理を大量に行う並列計算が得意で、グラフィックスやGPGPU計算で活躍。汎用性もある程度保ちながら高い並列性能を提供。ただソフトウェア的アプローチの部分も多く、電力効率では専用ハードには及ばない 15。
- FPGA:自由に回路を書き換え可能な再構成型ハードウェア。開発期間の短縮や変更への柔軟性が必要な場合に有用。特定アルゴリズムをハードウェア実装できるため性能・効率はソフトウェアより良いが、同じものをASIC化した場合にはかなわない。比較的小規模~中規模の並列処理や、低レイテンシが要求される処理(例:高速通信機器の制御、金融取引の高速演算など)に強み。AI分野では推論加速やプロトタイプ検証用途で使われる。
- ASIC:特定用途に特化した完全カスタムハードウェア 13。量産前提で作り込むためコストは高いが、性能・効率は最高レベル。用途が明確で変更の可能性が低い場合(例:有名な暗号通貨アルゴリズムの計算、映像エンコード/デコード処理など)はASIC化によって圧倒的な処理性能が得られる。AI分野でも各社が独自のASIC(NPUなど)を開発中。
これらはトレードオフの関係にあります。柔軟性を取れば(CPUやFPGA)性能あたり効率は下がり、効率を極限まで高めれば(ASICやTPU)汎用性を失うという具合です 14。GPUはその中間に位置し、ある程度の柔軟性を保ちながら汎用計算を高速化できる点で広く使われています。現場では、求める性能や開発期間、コストに応じて最適なハードウェアが選択されます。
例えばプロトタイプ段階ではFPGAで実装し、量産時にASICに置き換えるという流れも一般的です。GPUやCPUはすぐ使える既製品として便利で開発コストも低いので、多くの用途でまず検討されます。特にGPUは近年ソフトウェアエコシステム(開発環境)が充実しており、AI分野ではCUDAやOpenCL、各種ライブラリによって開発がしやすい利点もあります。FPGAやASICはそうした面では敷居が高いため、本当に必要な場合に限定される傾向があります。
まとめると、CPU・GPU・FPGA・ASICそれぞれ一長一短があり、汎用性と効率のバランスが異なるのです。昨今のエッジAIやIoTの時代では、一部の処理を専用ハード(ASIC/FPGA)にオフロードしつつ、全体の論理はCPUやGPUで制御するような異種混合コンピューティングも増えています。これらの技術を適材適所で組み合わせることで、システム全体として高い性能と柔軟性を両立させることが可能です。
ポイント:GPU・TPU・FPGA・ASICの特徴
- GPU:汎用並列計算機。グラフィックス以外にも広範囲に使えるが、電力効率では専用チップに劣る場合も 15。ソフトウェア基盤が充実し扱いやすい。
- TPU(ASICの一種):ディープラーニング特化ASIC。特定処理において桁違いの効率 9。用途限定だがAIサービスで威力を発揮。
- FPGA:書き換え可能なハードウェア。開発柔軟性が高く、適度な性能向上。小中規模の並列処理や専用ロジック向き。AI推論や高速制御で利用。
- ASIC:専用設計IC。性能・効率最優先で作られる 13。量産効果が大きい用途(暗号計算、映像処理チップなど)で採用。開発コスト大。
- 使い分け:要求性能・コスト・柔軟性次第で選択。汎用性が必要ならCPU/GPU、特定機能の極限追求ならASIC、途中のバランス解としてFPGAというように役割が異なる。
7. GPUの歴史と市場寡占の展望
GPUは1990年代後半から登場し、そこから目覚ましい進化を遂げてきました。当初は3Dグラフィックスの描画を専任するグラフィックスアクセラレータとして各社から製品が出ており、3dfx社のVoodooシリーズやNVIDIA社のRIVA/GeForceシリーズ、ATI(現在のAMD)社のRage/Radeonシリーズなどが競い合っていました。
1999年にNVIDIAが「GPU」という名称を打ち出して以降、プログラマブルシェーダの導入(2001年前後)、GPGPUへの発展(2006年前後)など技術的ブレイクスルーが相次ぎ、GPUは単なる描画装置から汎用並列コンピューティングデバイスへと役割を広げました 16。特にCUDAの登場以降(NVIDIAによるGPGPUプラットフォーム、2007年)、科学技術計算や機械学習でGPUを使う流れが加速し、GPUは計算分野の主役の一角となりました 9。2010年代後半にはディープラーニングブームに乗ってGPU需要が爆発的に増加し、データセンターでもGPUが大量導入されるようになりました 9。
市場の観点では、現在NVIDIA社が離れた首位に立っています。NVIDIAはゲーミング向けからプロ向け、データセンター向けまで幅広いGPU製品ラインを持ち、2020年代にはディスクリートGPU(外付けGPU)市場のシェア80%以上を占めるまでになっています 9。特にAI用途の分野ではNVIDIAの独走状態で、GPUを基盤とするAI用半導体市場の90%近くをNVIDIAが掌握しているとも報じられています 17。
これは、NVIDIAがいち早くCUDAという開発環境を整備しAI研究コミュニティに浸透させたこと、GPUアーキテクチャの世代交代を速いペースで進めて性能リーダーであり続けたこと、そして近年ではRTコアやTensorコアなど新機能を盛り込み需要を喚起したことなどが要因です。また主要クラウド事業者(AWSやAzureなど)がNVIDIAのデータセンターGPUを採用し、大規模言語モデル(ChatGPTなど)の学習にも使われるなど、社会インフラ的存在になっていることも寡占を支える理由でしょう。
対してAMD社(旧ATI)はシェア2位ですが、近年はデータセンター向けGPU(Instinctシリーズ)やゲーム機向けカスタムGPUなどにも力を入れ、巻き返しを図っています。
直近ではAMDのGPU事業売上は5億ドル規模に成長し一定の成功を収めていますが、技術面では依然NVIDIAに後れを取っています 18。例えば2023年時点でAMDが発表した最新GPU(MI300シリーズ)は、NVIDIAが1年半前に出した世代のGPU(Hopper世代)に性能で及ばず、NVIDIA最新世代(Blackwell世代)とは更に大きな差が開いています 18。このようにNVIDIAが技術的優位性を保持しており、AMDが追いつくには時間がかかると見られています 18。もっともゲーム向けではAMD Radeonもコストパフォーマンスの良さなどから一定の支持があり、両社の競争は続いています。
Intel社も近年ディスクリートGPU市場に参入しました。従来はCPU内蔵の統合グラフィックス(iGPU)が中心でしたが、2022年にArcシリーズとして本格的な外付けGPUを発売しました。
ただ初代製品はミドルレンジ帯で、シェア獲得はこれからといった状況です。Intelは長年のCPU供給で培ったシステム統合力や先端プロセス技術を武器に、将来的にGPUでも存在感を高める可能性がありますが、ソフトウェアエコシステムやドライバの成熟度では先行するNVIDIA/AMDにまだ差があります。
今後のGPU市場の展望としては、AI需要が引き続き原動力になると予想されます。生成系AIや大規模モデルの普及でデータセンター向けGPUの需要は非常に高く、NVIDIAは「需要が異常なほど高い」と述べるほどです 18。各国・各企業がAI計算資源の確保にしのぎを削っており、この「存在論的軍拡競争」とも呼ばれる状況が当面は続くでしょう 18。その中でNVIDIAは引き続き供給を拡大しつつ、新製品でも技術優位を保つ戦略です。一方、AMDもMI300など新GPUを投入し、高帯域メモリやCPU-GPU一体型のAPU(Accelerated Processing Unit)的製品で差別化を図っています。Intelも次世代Arcを準備中です。
将来的には、GPUアーキテクチャ自体も変化が予想されます。チップレット技術によるモジュール化や、メモリとの統合、さらにはCPUとGPUの境界が曖昧になるような設計(異種コア搭載)も研究されています。また、競合技術として各社独自のAIアクセラレータ(Google TPUのようなASICや、AppleのNeural EngineのようなSoC内蔵NPU)が台頭する可能性もあります。しかし現状では、汎用性と性能を両立したGPUの需要は非常に高く、しばらく主導的地位が続くと見られます 17。特にNVIDIAはソフトウェアまで含めたエコシステムで先行しているため、よほどの技術革命がない限り短期的に寡占状態が崩れることはないでしょう。
もっと長い目で見れば、新しいコンピューティングパラダイム(量子コンピュータなど)の登場や、オープンソースGPUプロジェクトの進展など、GPU市場を取り巻く環境が変化する可能性もあります。しかし「大量の並列計算を高速に行うニーズ」自体は今後も増えこそすれ減ることは考えにくく、そのニーズに応える存在としてGPUおよびその後継となる技術は発展し続けるでしょう。寡占状態については、適切な競争が維持されることで価格や革新の停滞が起きないことが望まれます。AMDやIntelの奮起、新興企業の参入などにより、ユーザーにとってより良いGPU市場になっていくことが期待されます。
ポイント:GPUの歴史と市場動向
- 歴史:90年代後半にGPU概念が誕生。2000年代にプログラマブルシェーダで汎用計算能力獲得、2006年頃からGPGPU時代へ。2010年代後半のディープラーニングブームで需要爆発。
- 現在の市場:NVIDIAがディスクリートGPU市場を事実上寡占(シェア80%以上) 9。特にAI用途では約9割のシェアを握り圧倒的 17。AMDが第2位で競争、中程度のシェア。Intelが新規参入。
- NVIDIA優位の理由:CUDAエコシステムによるソフト面の強さ、技術開発力で世代ごとにトップ性能を維持、専用コア追加など付加価値創出、AI市場への的確な対応。
- 競合状況:AMDはゲーム機・PC向けで一定の地位、データセンター向けで追随するも技術差あり 18。Intelは統合GPU多数だが離散GPUはこれから。各社ともAI需要を睨みGPU強化中。
- 将来展望:AIやクラウド需要でGPU需要は堅調。NVIDIAの独走が当面続く見通しだが、他社の巻き返しやASICなど代替技術の発展にも注目。新技術との融合(CPU-GPU統合や量子計算など)も長期的課題。ユーザー側では競争促進による価格低下や性能向上が望まれる。
以上、GPUについて基本から応用まで概要を説明しました。GPUは「大量の簡単な計算を同時に行う」ことを得意とする特殊なプロセッサであり、その能力を活かしてゲームの映像からAIの学習まで幅広い分野で活躍しています。
GPU周辺の技術(メモリ、コア構成、専用ユニットなど)も年々進歩しており、スペックの見方を知ることで最新GPUの性能特性を理解できるようになります。また、GPU以外にもTPUやFPGA、ASICといったハードウェアがあり、それぞれに適した用途があります。
特に昨今はAIブームによりGPUが半導体市場を席巻する勢いで、NVIDIAを筆頭に市場が拡大・進化しています。今回の解説が、中学生にも理解しやすい形でGPUの仕組みや役割をつかむ一助になれば幸いです。スライドや図解を交えた説明資料なども活用しつつ、ぜひ復習してみてください。これからテクノロジーがさらに進歩しても、GPUの基礎原理を知っていれば新しい動向も理解しやすくなるでしょう。
参考
- 1: 〖2024年11月最新〗GPUとは?性能・特徴や選び方のポイントを解説 | Offers Magazine
- 2: GPUの新時代を切り開く「Turing」アーキテクチャ徹底解説 – ITmedia
- 3: HPC向け GPU「 Instinct MI100」。FP32/64で NVIDIA A100を上回る
- 4: NVIDIA H100 Tensor コア GPU
- 5: 西川善司の3DGE:GeForce RTX 30シリーズのアーキテクチャを …
- 6: VRAMとは?グラフィックメモリの種類と役割を解説 – ITとPCに関連する用語の解説
- 7: 【特集】CPUやGPUの発熱や電力をカットする方法 – PC Watch
- 8: GPUの台頭と進化がサーバの消費電力を急増させる – EE Times Japan
- 9: CPU、GPU、NPU、TPUの特徴や違いについて解説|IT Insight|Rentec Insight|レンテック・インサイト|オリックス・レンテック株式会社
- 10: Google の Tensor Processing Unit (TPU) で機械学習が 30 倍速く …
- 11: 超越GPU:TPU能成为接班人吗?_tpu处理器 – CSDN博客
- 12: 【天风海外】TPU能取代GPU吗?谷歌云计算MLaaS脱颖而出的差异化
- 13: 〖初心者〗今話題のFPGAって何?AIを爆速で動かそう!
- 14: CPU、GPU、ASIC、FPGAの概要紹介 – FS.com
- 15: プロセッサの基礎知識(2)~種類と使われ方~ – パナソニック
- 16: 〖3分解説〗CPUとGPUの違いをわかりやすく紹介!用途やコア数も | プログラミングスクールならテックキャンプ
- 17: AI革命を牽引する注目の2銘柄:NvidiaとAmazonの成長戦略 – Reinforz
- 18: NVIDIAの優位性とチップ市場の未来|takurot